■プラスガーデン その③ブランドスピリット

プラスガーデンの店長であり企画開発責任者でもある加藤恵子さんに、プラスガーデンの立ち上げ・ブランディングについてお話しいただきました。

お店にお伺いすると、いつも元気いっぱいの笑顔でお出迎えくださる加藤恵子さん。
明るい笑い声や楽しいおしゃべりについつい時間を忘れそうになります。

インタビューを始める前に、「前置きの話ね、」と言いながら、昨日あったいいことについてキラキラとした笑顔で話してくださいます。
「もう今の時代はPDCAサイクルっていうのは古いらしいの。なんでかっていうとね・・・」
「ブランディングって本当に大切って教えてもらったの。こういう話があるのだけれど・・・」
「昨日は花盛りの1日だったからとにかく楽しくて。つまり何が言いたいかっていうと、外を出歩くといい出会いがあって、新しい出会いからどんどん最先端のことを聞くことができて刺激をうけることができて。とにかく最先端のことを知っておかなきゃいけないな、と思ったの。またいいことがあったら伝えるね!今日はそれが前振り。はい、インタビューどうぞ!」

このやりとりだけでも恵子さんの気さくで明るいお人柄が伝わるのではないかと思いますが、本当にチャーミングという言葉がぴったりな素敵な女性です。

恵子さんと二村さん

加藤さんご夫妻が「プラスガーデン」を立ち上げられる前は信楽焼もいわゆる大量生産の時代で、同じものをたくさん作ってホームセンターや問屋に卸していたのだそうです。価格を極力抑えて、大きなものをたくさん、というのがその当時信楽焼の植木鉢が求められている価値だったそう。ある時社長である加藤善久(かとうよしひさ)さんが、「自社からブランドをだして、直接小売店に販売をしたい。」という思いから、「プラスガーデン」が誕生しました。ただ言われたものをおろすのではなく、自らの手でブランドを立ち上げ価値を生み出したいという、その当時ではかなりチャレンジングなことだったのではと思います。ですがこの決意があったから、今の私たちはすてきな植木鉢に出会えたのだと思います。


「プラスガーデン」のコンセプトは「既存の枠にとらわれない発想で商品開発することで、単なるガーデニンググッズとしてだけでなく、生活を愉しむこと心地よい暮らしを提供すること」。庭(ガーデン)にプラスするだけでなく、家の中と庭とをつなぎ、生活を愉しむための空間づくりを目的とし、ブランドがスタートしました。

ブランド立ち上げの際には芸術大学出身の若いデザイナーを4名採用し、「思うものを自由に作ってみて!」と、伝統に縛られない自由な発想でものづくりを始めたそうです。そのころにうまれた商品、今見ても新しいと思えるような面白いものばかり。お店の入り口にあるタイル、とても素敵だなと思っていたのですが、まさかこれもそうだったとは。これは新しい発見でした。

また、27年前はテラコッタブームだったそうで、イタリア製テラコッタ鉢などが海外からたくさん輸入されていたのだそう。
テラコッタといえばシンプルな素焼きが定番のもので、焼成温度もだいたい700~800℃と低め。反してプラスガーデンの窯の特徴は1200℃以上の高温で焼く、釉薬のかかったしっかりとした鉢。
「素焼きもすてきだけれど、釉薬がかかっているのもこんなに面白いことをお客様に知ってほしかった」という思いから、ジャズシリーズが生まれた。
釉薬の色を4色に絞り、シンプルだけどモダンな雰囲気で、今みてもとても魅力的なシリーズ。

当初植木鉢に模様が入っているのはかなり珍しかったらしく、リリースするやいなや、すぐに海外産のコピー商品が出回る事態に。
ですがそこもプラスガーデンさんのポジティブな考え方。
「20種類を提供するからこそ成立するジャズシリーズの1つがコピーされたからと言って、どうということはなかった。それにこのジャズシリーズにかかわらず、面白いことにチャレンジしていればまた真似をするところがあって、毎回コピーとの闘い。だけど次はもっと面白いものをつくってどんどん新しいものを出していこう。そうすれば、追い付かれることはないから。」と恵子さん。なかなかそんなふうに思えることではないと思うのですが、次々チャレンジされている方だからこそ、こういった発想が生まれるのかもしれません。

クリエイティブな仕事にかかわっていると、この辺りは本当に難しいところだと感じます。
つくったからといってこれは私が考えたもの、と印をつけることはそれほど単価が高い商品でなければなかなかできない。それに優れたデザインのものは大体がシンプルでそぎ落とされたものだから外側の見た目だけなら真似をされやすいという特徴もあります。それをこんな風に前向きに考えられるところが、どんどん新しいことに挑戦するプラスガーデンさんのSpirit/スピリットを物語っていると感じます。

プラスガーデン立ち上げ2年目には、二村さん・高山さんもチームのメンバーに加わり、ますます勢いにのりだしました。
東京のギフトショー(小売店が新たな販路拡大のために仕入れる商品などを探しに行く商品会のようなもの)に10年間出続け、花店や園芸店から「こんなものが欲しかった」という反応があったりと、少しずつ手ごたえを感じながら、恵子さんは少しずつブランドとしての自覚がめばえはじめたそう。
もちろん「ブランド」を作ってきたつもりだったけれど、「純国産でオリジナルデザインで植木鉢を作ります」というところはあたりを見てもほとんどなく、競合他社というともしかしたら海外の高級Potなんかがそうなるのかしら??と、思わず若いスタッフに訪ねてしまうほど。このギフトショーでの経験は、自分たちがいつのまにか新しいフィールドを開拓していたことを実感するきっかけになったそう。

それまではデザインをプラスガーデンでおこない、海外(ベトナム)や瀬戸など、それぞれの製作に優れた土地に委託することもあったそう。
けれどこの時の「自分たちのブランドは自分たちがデザインして製作することでできあがる」という発見によって、完全自社制作の方向へとシフトチェンジしていったのだとか。

もちろんこれだけチャレンジングなことを次々と打ち出すプラスガーデンさん。
「生意気だと思われることもありました。」と微笑みながら話す恵子さん。
「だけどアンチがいるということは関心を持たれないよりもいいこと。もちろんネガティブなことを耳にするのはいい気持ちではないけれど、私たちはとにかくチャレンジし続けて面白いものを作り続けるんだ、という気持ちでした。」

そんな恵子さんに、これからの展望をおたずねしたところ、「お店の入り口にある燃料タンクがあるでしょう。これからそこをお茶室にしようと思っているの。」と、これまた面白い答えが返ってきました。
いたずらっぽい目をしながらキラキラと未来のことを話してくれる恵子さん。この好奇心こそが、他とは違うオリジナリティが生まれる理由であり、プラスガーデンを前に動かす原動力なのだと感じます。

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